唐巣神父
【心の名台詞】
「聖なる父、全能の父、永遠の神よ――!!
 ひとり子を与え、悩める我らを破滅と白昼の悪魔から放ちたもうた父!!
 ぶどう畑を荒らす者に恐怖の稲妻を下し、この悪魔を地獄の炎に落としたまえ!!」


 今回は「ゴーストスイーパー美神 極楽大作戦!」より、唐巣神父こと唐巣和宏の登場だ!

 眼鏡! オッサン! 前髪薄い! と、お世辞にも格好いいとは言いがたい彼の作中での役回りはやっぱり地味だ。

 お人よしの常識人ゆえに美神たちの破天荒な行動に振り回されたり、敵が現れると真っ先に犠牲になったりとヤムチャ一歩手前。
 しかし彼は一方で「日本で五本の指に入るゴーストスイーパー」であり、「美神の師匠」でもある。
 登場人物たちからの信頼も厚く、西条が登場するまではGSチームのまとめ役だったのだ。

 彼が最初にクローズアップされたのは第9巻収録「野菜の人」(ちなみにこのサブタイは「家裁の人」のパロディ)。
 ヴァンパイア・ハーフのピートを遥かに上回る霊力を発揮し、難敵・悪魔アセトアルデヒト(このネーミングも凄いわ…)を打ち破る神父の姿は、手から発した霊気が逆光になって顔の影を濃く浮かび上がらせている絵の迫力もあってなかなかカッコイイ。
 だが、特筆すべきはその後の話。
 貧しい人々からはお金を取らない、という信条ゆえに栄養失調で倒れてしまった神父のために、イケイケクソ女との異名を誇る美神令子が尽力するのだ。
 ハッキリ言って異例のことである。
 あの美神さんが他人のために自ら動くなんてことは連載通して数えるほどしかない。
 唐巣神父のお人好しぶりに「どうなっても知らないから…」と、困った顔で呟く美神は、まるで父親を心配する普通の娘のようだ。

 その後も、バトルでは一線を引いた感がるものの、「グレートマザー襲来」では大人としての立場と自分の感情の間で揺れる美神にアドバイスを送ったり、父親のことで悩む美神が神父に相談しに行ったりと、意外なほど強い信頼関係が描かれている。


 派手に敵を蹴散らしたり女にモテたりするばっかりが格好良さじゃーない。
 神父のような「人から信頼される男」というのも、立派な格好良さじゃーなかろうか。


 そんな神父に一世一代の見せ場がやってくるのは37巻〜38巻「GS美神’78」
 舞台は20年前、若き唐巣神父と美神の母、美智恵、美神の父、公彦の三人が主人公となる後期の傑作だ。
 当時の神父は横島たちが(今と見比べて)涙を流すほどの美形キャラだが、お人好しで結局三枚目になってしまう所は基本的に変わらないようだ。
 唐巣の口から語られる、当時の事件。若き唐巣の、信仰に対する疑念。破天荒だが強い信念を持った美智恵との邂逅。そして美智恵と公彦の馴れ初め。

 唐巣の話から父と母の様々な事情を知り、それでもまだ自分と距離を置く父へのわだかまりを解消できずにいる美神。
 語り終えた神父は微笑みを浮かべて言う。

「君さえ許しをあげてくれれば、この話はハッピーエンドで終わるんだがな」

 「まだ納得はできないけど…」と言いつつもとりあえず二人のことは認める、と美神。「だって…」悪戯めいた笑みを返す。

「ここで私がゴネると、三枚目に徹した先生がかわいそう」

 好きだったんでしょ、ママのこと。神父をからかう美神。いい年して照れた様子の神父もいい味を出してる。
 父が傍に居なかった美神にとって、神父はもう一人の父親であったに違いない。

 ラストシーン、父を見送りに空港に現れる美神と、彼女を助手席に乗せ、パトカーを引き連れて爆走する神父の姿は感動的だ。
 20年前、美智恵が手にしたハンドルを神父が持ち、神父が乗っていた助手席に美智恵の娘が乗っている。
 これも一つの男のロマン。
 このオッサンも結構人生を楽しんでいるんじゃないだろうか。
 是非、劇場版主題歌My Jolly DayをBGMに流したい。


 余談であるが、「未来から来た横島」が持っていたGS免許には、GS協会の会長として唐巣神父の名前がある。
 神父が出世するとは、世の中も変わったものだ。
 実際、美神をはじめとして様々な爆弾を抱えた日本のGS業界をまとめられるのは人格者の唐巣神父をおいて他にいないだろう。

 バトルで活躍できない、前髪の薄いサエないオッサンは、日本のGS界を背負って立つ男だった。