アマゴワクチン
【心の名台詞】
 「俺は追ってるんだよ! 遥か前方のあいつら二頭をな!」

 第二回は「みどりのマキバオー」より、不屈の闘将アマゴワクチン。

 アマゴワクチンという馬のポジションは、徹底して
「第三の男」
 主人公のマキバオー、ライバルのカスケードがそれぞれのキャラを確立させた頃、三歳最強を決める朝日杯三歳ステークスの直前に登場したもう一人の実力者。
 こういうポジションのキャラに、管理人は
実に弱いのだ。

 「第三の男」は、決して主人公やライバルのように
「活躍を約束されたキャラ」ではない。
 むしろライバルの強さを引き立てる噛ませ犬だったり、主人公がライバルに負ける展開の場合に「ライバルには負けたけど別の強豪には勝った」というフォローのためにやられ役を演じたりすることが多い。

 アマゴワクチンにもそういう匂いがした。コイツ、ヤバイんじゃないか?と。

 だが、ワクチンは違った。
 レース開始直後、あの傲岸不遜なカスケードが「お前の兄、ピーターIIは強かった…」と語りだす。
 一方のワクチンも「あんたを倒すのは、兄を超えるための試練だと思っている」と男っぽい発言。
 マキバオーがペースを乱して場群の中に消えていく前半戦、レースの主役は彼らだった。

 そして最後の直線。
 マキバオー、カスケード、ワクチンの三強が叩き合う場面。
 ここまでくると、さすがに第三の男が最初に脱落し、ライバルと主人公の一騎打ちになるのが王道というもの。

 だが、信じられないことに脱落したのはカスケード!
 そしてワクチンはマキバオーを抜き去ってトップに!

 結局、最後の最後で追い上げてきたカスケードに先頭を譲り、二着でゴールインとなったが、主人公のマキバオーより先着しているという事実は驚くべきことだ。
 しかもカスケードの追い上げも決して計算づくではなく、マキバオーやワクチンの驚異的な力に対抗すべく土壇場で発動した火事場のクソ力。
 主人公と共にライバルを窮地に立たせ、底力の覚醒に貢献するワクチンは、もはや単なる脇役ではなかった。

 ところが…
 一つのレースが終わると、読者にはある疑惑が生まれる。

 
次のレースはどうなるのか?

 漫画なのだから、毎回同じ三頭が活躍するレースではつまらない。
 新たなライバルも登場するだろう。
 そうなれば噛ませ犬も必要だ。
 主人公のマキバオーが噛ませ犬になるとは思えない。
 先のレースで勝てなかったライバル、カスケードが他の馬に負けるはずはないだろう。
 …そう…
 ワクチンだけは、新キャラに負けても展開的に問題ないのだ。

 そして奴は来た!
 
悪魔の矢ことモーリアロー!

 アローによる故意の走行妨害によって、ワクチンは骨折してしまう。
 ああ、しょせんこういう役回りなのか…と気落ちする読者だが、この一件でワクチンはかえって男を上げる。

 見舞いにやってきたマキバオーたちに前で、自分を骨折させたアローに憎まれ口を叩くでもなく「運が悪かった。勝ったアローも強かった」と大人の発言。マキバオーたちも感心のだが…
 マキバオー達が帰るや否や、頭を柵に叩きつけて嘆き出す。

「クソッ…もう取り返しがつかねえ…皐月賞…ダービーが……」


 自分を押さえることを知っていて、けれど胸の奥には熱い想いが溢れている。
 アツい。ただ冷静沈着なだけではない格好良さがコイツにはある!

 さらに怪我をおして出場した皐月賞。
 体調は最悪で、誰もが「走らせるだけ」だと思った彼が、このレースの主役だった。
 彼は完治していない脚で巧みにペースを操り、他馬をコントロールすることで勝利を狙ったのだ。
 カスケードただ一頭を除いて全馬がその策に引っかかり、ワクチンは最後の直線まで見せ場を作る。
 ここでも脚部不安が響いて最終的には勝ちを譲るが、ワクチン無くしてこのレースは語れない。

 その後、骨折が悪化し、ダービーは回避。しばらくストーリーからワクチンは姿を消す。
 マキバオー、カスケードがG1をとり、一人取り残されるワクチン…

 久しぶりの登場となったのがコミックス9巻に収録されている
「三強の復活」。
 ついに脚を完治させての登場!
 だが、この復活劇、ハッキリ言って、安心して見られたものでは無かった。
 三強と呼ばれながらも未だ重賞を取っていない焦りを吐露するシーンあり、新キャラ「ブリッツ」の不吉な台詞あり、レースが始まっても「ペースが速すぎる」との外野の声…
 まさかここでコケるんじゃ!?

 しかしワクチンはその全てを気合で吹っ飛ばした!

 序盤から飛ばし、逃げの体勢で完全にレースを支配するワクチン、と実況は叫ぶ。ワクチンはそれを否定し叫ぶ。

「逃げ…逃げだと!? 逆だ!
 俺は追ってるんだよ! はるか前方のあいつら二頭をな!」


 相変わらずアツい男だぜワクチン!

 そして続く三冠最後のレース、菊花賞。兄が骨折引退により、唯一取ることのできなかった最後の冠。
 兄から受け継いだシャドーロールと共に、あのマキバオーから追う気力を奪い去るほどの迫力を見せ、ワクチンは激走する!

「いっけぇーー、ワクチン!」

 按上、山中も叫ぶ!

「前を見ろ!これが本当のお前の力なんだ!!誰もいやしねえ!
 もうマキバオーもはるか後ろだ!!」

「満身創痍の皐月賞、お前は直線で失速しながらどんな想いで奴らを見てた!?
 脚の痛みをこらえて何を考えていた!!」

「見守るだけの日本ダービー…
 20万人の大歓声を、お前はどんな想いで聞いていた!?」

「オレはもうゴメンだぜ!!
 ピーターU…そしてお前という名馬と組みながら他の奴らに栄光を譲るのは!!」

「お前はどうなんだ!」


 そして一着でゴールをまたぐワクチン! 実況がまた、神がかった名台詞を叫んでくれるんだこれが!


















 

アマゴワクチンだ!




















アマゴワクチンだ!!
 



































アマゴワクチン 今 一 着 で ゴ ー ル イ ン!!
























立原厩舎に一年遅れで菊 が 開 花!






春の無念と兄の悲運を乗り越えて





白いシャドーロールが今 三冠を達成!!



 












 あ、アツすぎる!!
 完全に「主役はワクチン」状態。

 この後は再び大きな活躍をすることも無く最終回を迎えるのだが、最終回でも引退式の様子が描かれるなど、最後まで「三強」の一角を守り続けたアマゴワクチン。

「キスぐらいならしてやるよ」

 の名台詞と共に、彼のことは語り継がれていくことだろう。